hitoriの卵焼き

砂糖味、塩味、しょうゆ味、不思議な味。あなたはどれが好きかな。

ナンセンス童話   きき耳ずきん   文春の記者なら欲しがるだろうなぁ

 

ナンセンス童話


     きき耳ずきん

 

 ある日、フリー・マーケツトで見つけた頭巾
 赤い、手垢のついた頭巾

 今ごろ、頭巾なんてかぶる者はいない
 「いやいや、これは珍しいものだから
 きっと、だんなの役に立つはず」

 売り主が無理やり押し付けてくる
 遠慮なんてしていないが
 押し売りは嫌だ

 「おいおい、もったいないことするな」
 売り主が教えてくれたことは
 「実はこの頭巾
 家宝になるほどのもの」

 「大きな声では言えないが
 内緒で教えてあげる
 これはあの有名なきき耳ずきん
 いろいろな声が聞こえる
 ただでもいいから持っていってくれ
 なんなら、このカバンもつけてやるよ」

 カバンを貰って得した気分
 カバの絵もついたカバンに頭巾を入れて
 持って帰った

 しかし、何だか気になるきき耳頭巾
 ちょっと使ってみようか

 うちの犬が何と言うか聞いてみよう
 庭におりて、犬のそばに座った
 頭巾をかぶって待っていたら
 隣の猫がやってきて
 犬と世間話

 二匹が話す、ご近所の噂話
 あれあれ、今度はうちのことだ
 なになに、うちの奥さんが毎日おめかししてお出かけ
 あらあら、いつもお迎えの車が来るだって
 なんたること、それは男

 聞かなきゃよかったような気分
 誰に聞いたと話せばいいの

 今度はスズメが飛んできて
 庭の木に止まって、おしゃべり

 あれあれ、ご近所の夫婦喧嘩の話
 なになに、次は泥棒の話

 しかし困った
 泥棒のことを聞いても、警察に何と言おう

 聞かなきゃよかったような気分
 誰に聞いたと話せばいいの

 捨てるに捨てられない きき耳頭巾
 私もフリー・マーケットで客に売りつけよう