犯人はお前か
犯人はお前か!
「はじめに」
牛乳がだめなんて話はよく耳にします。しかし、それ以外は珍しいと思ってました。以前、洗顔せっけんに含まれて小麦でアレルギーが起きた件も稀なことだと思えました。
アレルギーは自然界で生きるための体の防御反応です。病気にならないようになるのも、同じ免疫反応。食べ物を食べていかなければならない私たちにとって、食物アレルギーに出くわすことは、誰にでもありえることなのです。
アレルギーの怖さを思い知らされた私の体験です。
1章 肩こりと目の痛み
身近にいる犯人ほど見つけにくいものです。
50歳を過ぎてから、なんか肩が痛いんだよね。肩こりなんて久しぶり。人間、肩こりと腰痛からは逃げられないなんて言葉を聞いたことがあるけど、ほんと?
若いころ、胸が大きくて肩がこってたし、編み物が好きでこってたりもした。便秘でも肩こりや頭痛がでた。
人間年取るとガタがくるんだよねと自分なりに納得してみる。しかし、肩の痛みは治まらず、その張った感じは首に広がり、三日もするとひどい頭痛を引き連れてきたのだ。
肩と首が痛いのだから整形外科?病院で待たされるのは嫌だから、大きなとこはやめよう。そこで一番近い整形外科を受診。
そう言えば、以前にも整形を受診したことがあったな。九州にいたときだよ。肩とか太ももとか痛くなって、整形にいった。暇つぶし感覚で。だいたい一週間もすればなおるんだもの。そこの先生、若くて、開院したばかり。リハビリの設備も整っていて気合十分。
太ももが痛いんだけど、うまく説明できないし、向こうも聞く気がない様子。
「湿布を出しておきます。リハビリしますから、通院して」
結局、膝が痛いということになってしまって、太ももの筋トレです。
関西に引っ越したので、今回はバス道路沿いにある古い医院。車が3台停められる駐車場がある。4台目のスペースは院長の大きな車が陣取っていて、その奥には自宅へと続く道があった。
受け付けをすませて、長椅子が三つ並べられた待合室に座ると、数人の患者がいた。これだと待ち時間は少ない。
二十分もしないうちに名前が呼ばれた。中にいたのは七十くらいの医師。首のレントゲン撮影をした。
「ここね、4番目と5番目の骨の間が狭くなってるやろ。それで痛みがきてるんや。痛み止めと脳の血流をよくする薬を出しておく」
首の骨のレントゲン写真を見せられたが、どう狭いのかイマイチわからない。
窓口で薬の説明をされ、「これが炎症止め、こっちはビタミン剤、そして血流をよくする薬です」と渡された。
その後、数回痛くなるたびに受診した。骨の間隔が狭くなっていることが原因と信じて。
医者なんて、その専門以外は詳しくないものです。いい医者になると、持病や既往歴などの問診がしっかりしてます。
数年後、私はホテルの掃除の仕事をしていた。部屋に入るたびに、ベッドのそばにある灯りが眩しく感じるようになった。翌日には、対向車のライトが目に入ると痛みを感じ、目をそらすことにした。家に帰って目薬をさすと、しみて痛い。
目薬が古い?いやだ、捨てちゃえ。目は心配だ。肩なんかより、ずっと心配だ。
眼科を探したけれど、一番近いところは休院中。残るはあそこか。待ち時間長いだろうな。だいたい眼科は患者が多いから覚悟しとかなくちゃ。
翌日、救急車も受け入れる総合病院の眼科を受診した。担当した医師は50代後半の女医さん。診察室を暗くして目を覗き込む。
「黒目に潰瘍ができてますね。今までにもあったようですよ。小さい痕がたくさんあります」
潰瘍?黒目に?なにそれ?胃潰瘍みたいなやつ?しかもたくさんの痕?
その後の先生の言葉が私をアッパーカット!
「免疫反応でしょうね」
2章 シンプルな犯人
免疫反応といえば、なんのことはない、アレルギーなのだ。
私がそれまでに経験したアレルギーは、鼻炎と牛乳。鼻炎は妊娠と出産の繰り返しのうちに、いつの間にか消えた。どんなにひどい鼻炎でも妊娠すると消えたし、授乳時期が過ぎると再び鼻炎が現れたが、4人も産むと風邪の時以外は鼻水が出なくなった。実際のところ、風邪なんてひく暇がなかった。
鼻炎のときって、口で息するしかなくて、寝るときだって、口の中がカラッカラ。鼻を拭きすぎて鼻の下がヒリヒリしたり、薬を飲めば一日中ぼーっとしてしまう。結構つらいものです。
私の対処方法は、お医者さんに教えてもらったもの。早めの薬。あれ?いつもの鼻炎かなと思ったらすぐにアレルギー性鼻炎に効く薬を飲む。するとひどくならずにすむから。
牛乳は突然に現れた。全身に蕁麻疹がでて、夜だったので救急病院に駆け込んで注射と薬を処方してもらった。たまたま体調が悪かったのかなと気にもしていなかった。それまで蕁麻疹なんて経験したことがなく、お気楽に考えてしまったけど、二回目の蕁麻疹で気が付いた。私は牛乳アレルギーなのだ。
特に牛乳が好きなわけでもないから問題ないか。それからというもの、牛乳はいっさい口にしていない。
数年後から、よく背中が痒くなるようになった。背中って手が届かないから気になるんだよね。空気が乾燥してるのかなぁ、その程度に考えて、まごの手でカキカキ。
そんなこんなで数年が過ぎたころから、夜中に背中が痒くて眠れないことがおき始めた。
年取って体が痒くなる、皮膚が乾燥して痒いって、こんな感じなの?いやぁ、年はとりたくないね。
いやはやお気楽に考えてしまう私。
そのころ、味噌汁を飲むとお通じがよくなることに気がついた。やっぱ味噌汁は健康の元なんだね。
体のことに気を配り始めた私、毎日何を食べたか寝る前に考えるようになってきた。
なぜ痒くなるんだろう?牛乳、飲んでないし、乳製品も控えている。
味噌汁と痒み、なんだろう?
痒いのは皮膚。皮膚といえば、組織の表面。
便秘がよくなる。腸の動きがよくなる?違うかも。動きがよくなって便秘が解消されることもあるだろうけど、腸内の表面が背中の痒みみたいな状態になっていたらどうなる?
もし味噌汁で痒みが出てるとしたら、原料の大豆、全部だめなんじゃない?
口に入れるものの中で、濃い醤油味や味噌の入ったものと痒みの度合いを調べてみた。考えた通り、まったく食べなかった日は痒くなかった。
それからというもの、スーパーやコンビニで買い物をするとき、材料などを気にするようになってきた。驚くべきことに、大豆はあらゆる食品に使われている。
それでもお気楽な私、小麦アレルギーよりいいかな。だって、大好きなうどんが食べられるものね。
ネットで雑穀味噌と醤油を取り寄せて、痒みがひどい間はそれを使うようにした。今はしてないけど。そのころは、アレルギーとの付き合い方がわからなかったから。ただ、口に入れるものへの不安ばかり。
春になると、ピースご飯食べたいし、コンビニのレジ横の豆大福は今でも誘惑が大きい。枝豆、おいしいのよね。ああ、温かいご飯と納豆、ごくりをつばを飲んで我慢です。
ケーキや菓子パンに使われている生クリーム、食べたあとは体がだるくなります。誕生日やクリスマスは息子が気をきかせて、生クリームなしを選んでくれます。感謝。
アレルギーも10年以上つきあえば、慣れてくるものです。しかし、敵はしぶとい。
「免疫反応のようですね」の言葉で、私は気がついた。アレルギーって、蕁麻疹とか痒いだけじゃないんだ。ショックで死ぬ人もいる。想像できないけど、怖いものなんだ。
あれ、待てよ、あの首が痛いのは何だったんだ?目の虹彩の表面に潰瘍ができたりするんだから、軟骨の表面や筋肉の付け根にだって炎症が起きるのかもしれない。
毎日の料理の味付けや材料に注意しながら生活していたのだが、まだまだ落とし穴が存在した。
3章 かくれんぼ名人
自分の体を気にするようになって、コンビニで見かけるサプリメントを買うようになった。一応、成分を確認。でも、わからないカタカナが並んでいる。
一日一粒で必要なビタミン、ミネラルが摂れて、一週間分というのを買った。すぐにその日から摂取。翌日の夕方、なんか右手首が痛い。サプリを三個目を食べた夕方、手首が痛くてたまらなくなって、目をやると、さくらんぼの種くらいの膨らみができてた。
何これ?もしやと思い、翌日のサプリを摂らずに過ごしてみると、痛みがやわらいだ。サプリの成分表を見ても大豆なんて書いてない。アミノ酸だのロイシンだのと書いてあるだけ。そのアミノ酸は何から作られたものなのか、書いてない。それにサプリメントなら、吸収をよくするための成分も含まれているだろうから、すぐに症状が出たに違いないのだ。
怖いよ。テレビでもたくさんの健康食品や薬が宣伝されているけど、乳酸菌だのいろんなのが入っていて、それがどの材料からなんてわかりにくい。お気楽な私でも、躊躇してしまう。
テレビでよく見るグルメ番組や大食い、羨ましい。旅行の楽しみといえば、食べ物があるけど、それも制限される。
目や首、手首といろんな場所にでてくるアレルギーのおかげで、私は食べ物への警戒心を持つようになった。体になんらかの不調があると、何を食べたのかを考える習慣がついた。しかし、それも記憶頼り。メモはとってない。お気楽なんですよ。
今年になって、仕事のとき、なぜか膀胱炎に悩ませるようになった。嫌いな相手と組む場合はトイレに駆け込みにくい。こいつとは相性が悪いからかなぁ。ストレスたまるんだよな、なんて思ったくらいで、あまり気にもかけなかった。なぜって、家にいるときは、困ることがないから。
今月に入ってから、ゆっくりと考えてみた。いつから膀胱炎がでるようになった?毎日じゃない。土曜日が多いような気がする。去年は食べてなくて、最近食べることが多くなったものは?
「グミ」
しかし、グミにはゼラチンと果汁くらいしか入ってないけど。私には今のところ理解不能。
グミを食べないようにしたら、膀胱炎は治った。
4章 犯人捜しに終わりがない
アレルギー体質からは逃げられない。ならば、うまく付き合うことです。
人によって症状は様々。蕁麻疹だけだと思っていた私、油断してました。アナフラキシーショックなんて特別な人だけって思ってしまいますよね。しかしですよ、目にだって出るなんて経験したら、誰でも用心深くなるもんです。
姿がはっきりと見える敵なら、用心しやすいけれど、成分があまりよくわからない食品もあります。最初は少しずつだから、症状が出ないだけで、ある日突然現れる。
雑穀味噌を買ったときに添付されていた紙に、同じ物をずっと続けて食べてはいけないと書かれてました。キビ味噌、ヒエ味噌、アワ味噌などと交代しながら使うようにするほうがいいそうです。なぜなら、キビ味噌がおいしいからといって、そればかり使うと、今度はキビのアレルギーがでることがあるから。
ダイエットで一つの食品ばかりを摂るのも危険。やせるよりも健康が大事。
私が作る料理は、味付けは塩コショウが多くなりました。煮物は薄味、揚げ物に使うのはキャノーラ油、焼うどんのときは、味付けにだしの素。
アレルギーだからといっても、食べる物がすべてなくなってしまうわけでもなく、おいしいものはたくさんあります。みんなと同じ物をたべなければいけないという決まりもない。
困ったことといえば、ホテルでの会食。大豆がだめ、牛乳や乳製品がだめなんて言うと、メニューに頭を悩ませそう。一度、こんなことがありました。みんなはコーンスープで、私だけがお吸い物。みなさん、洋風で、私は焼き魚。これは目立ちすぎます。見かけだけでも、みんなと同じようにして欲しいかな。田舎のホテルだったので、仕方ないと思いました。
気楽に考えて、心配しないことです。友だちと食事に行って、「なんでみんなと同じもの食べないの?」なんて聞かれたら、嫌いだからでいいし、会食でメニューが違うって言われれば、隠す必要もないから、「アレルギーだ」と答えればいいだけ。
食物アレルギーについての意識を広げたいですね。安心して、メニューから注文できる嬉しさ、みんなと同じ料理が食べられる幸せ。
誰だって、アレルギーになる可能性があるのです。食べ物、薬、サプリメントを安心して購入できるようになって欲しいと望んでいます。