消防車と焦げたイカ
以前、団地に住んでいたときのこと。
ベランダで洗濯物を取り込んでいると、消防車が一台通り過ぎた。
「あれ、どこか火事?」
赤色灯が点滅してる。サイレンはないけど、どこだろう。あわてて北側の部屋の窓に行くと、ぎゃ!消防車だ。
うちは二階。下の部屋の方を見ても煙はない。もしや、上を見る。煙はない。火事じゃないの?
!? 階段を登ってくる足音だ。
玄関の覗き窓に顔を近づけると、消防の制服姿の男が一人。向かいのおじいちゃんを訪ねていた。
耳をそばだてて聞いていると、こんな会話。
「消えているのはわかっているんだけど、一応、緊急通報システムが作動したから確認ね」
へぇ、おじいちゃん、そんな装置をつけているんだ。火事にならなくてよかったよ。
「ああ、こがしちゃってね」
何か作ってたんだ。
数分後、トイレに行くと、何この匂い?
イカの煮物が焦げた匂いだ。ここ団地だから、トイレの通気口がつながってたわ。
数年後、団地の入り口の前にパトカー。玄関の覗き穴から見ると、お向かいにおまわりさん。
「一日の新聞は取り込んでいるみたいだから、そのあとですね」
そういえば、新聞がたまってた。正月だから子どもさんのところにでも出かけたのかなと思ってたけど。。。
玄関を開けてみると、階段の踊り場に二人ほど、おじいちゃんの知り合いのような人がいた。
「どうしたんですか」
正月の間に亡くなったらしい。一人暮らしだったし、知り合いが心配して警察に連絡したみたい。早く見つかってよかった。
なぜって、長いことわからなかったら、トイレから匂いで気づくなんて嫌じゃない。