hitoriの卵焼き

砂糖味、塩味、しょうゆ味、不思議な味。あなたはどれが好きかな。

第19話 垢ぬけた足

 私ね、階段が怖いんです。
 若い時に、住んでいたところの階段、二段下りたところから残りをお尻でドンドンドン!って。
 痛かったのなんのって、大きなアザがお尻にできて歩くこともままならなかった。
 治るのにひと月かかりました。
 それから階段には気を付けていますが、私、おかしな癖があるみたい。
 階段を下りるとき、最後の一段をよく踏み外すんです。
 今考えると、最後の段だけ、大股になってしまうのかな。
 それが、あるとき、疲れていたんだと思います。
 息子が二度の目の手術を終えて、ずっと付き添いもして、やっと退院した翌日の朝。
 ゴミ袋を左手に持って、右手は壁を撫でながら階段をトントントン。
 !? スッテンコロリン、ドテッ!
 「ああ、やっちゃた。痛い」
 足をひねった?
 長男が音に気がついて二階から下りてきました。
 「何しよん」と、ゴミ袋をとって、出してきてくれました。
 私はというと、這うように階段を上り部屋でじっとしていました。
 痛みは覚悟していましたが、左足の甲が腫れあがってきて心配になり、整形外科にいくことにしました。
 「折れてるよ」
 レントゲン写真を見ながらポツリと一言。
 生まれて初めてギプスをつけられました。
 長靴みたいだ。
 幸いにも左足だったので、自分で車を運転することができました。
 ギプスを外すのは三週間後。
 最初はピッチピッチだったギプスも、足の腫れがおさまるとプカプカ。
 二週間もすると、半分くらい足が抜けそうな気がしてきました。
 明後日には外すという日の夜、いつものように面白半分で、ギプスの中で足をパカパカと動かして遊んでいるうちに、「なんか本当に抜けそう」と思いました。
 子どもの歯が抜ける感覚みたい。
 ひょいっと踵に力を入れて足を引っ張ったら、スポッ!
 「ああ、ぬけた~~~~!」
 なんと懐かしい足よ。
 しかし、三週間洗っていないとこうなるのか。
 のり弁のノリをはぎ取ったみたいに薄っすら黒い垢に覆われた我が足。
 さっそく風呂に入ってこする、こする、こすりまくる。
 びっくりするくらい垢が落ちました。
 三週間ぶりの湯舟は嬉しかったですよ。

 そんなこともあって、私は階段を一段ずつ確認しながら下りるのです。